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★水樹剣正くんの官能っぽい小説・抄録&
ホシノ光栄の書評コラム「ライトノベルが最高だ!」お立ち読みコーナー★
★コミック メガドリームは休刊いたしました。ご愛読ありがとうございました★
■諸般の事情で、一部伏せ字にさせていただいています。なにとぞご 了承ください。 ■
主に前半の一部分ではありますが、世界観やキャラクターの魅力、文章力は充分にご理解いただけると思います。
どうぞお気軽にお立ち読みください。
●10月16日発売★コ ミックメガドリーム200412月号
ホシノ光栄の書評コラム「ライトノベルが最高だ!」●「涼宮ハルヒの憂鬱」論
●10月16日発売予定★コ ミックメガドリーム2004年12月号掲載「裸のコルヌ」抄録
●コミックメガドリーム200411月号
ホシノ光栄の書評コラム「ライトノベルが最高だ!」●「撲殺天使ドクロちゃん」論
●★08 月17日発売★コ ミックメガ ドリーム2004年10月号掲載「紅い制服の処女 前編」抄録
●★コミックメガドリーム2004年11月号掲載「紅い制服の処女 後篇」抄録
●好評発売中●「王女マリイの恥辱」抄録●アンソロジー「プリンセス物語」(東京 三世社 ドゥコミックス)収録
● シト新生〜撲殺天使ドクロちゃん
そもそも「天使」とはなにか。
「知性や意志などの天賦の才において、本質的には神に劣るが、一般的には人間にまさる存在である」(ブリタニカ国際大百科事典より)
「一般的には人間にまさる存在」とはとうてい思えないのが、主人公・桜くんのもとへ、ある日突然あらわれた可愛らしい天使、「ドクロちゃん」である。ド クロちゃんはことあるごとに桜くんの勉強を妨害し、着替えを目撃されるなどという、ささいなことでまがまがしいトゲつきバット「エスカリボルグ」により桜 くんを撲殺し、そのあとには「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜♪」という擬音(?)とともに、桜くんは再生される。これが日常の風景として日々くり返される物語 が、おかゆまさき「撲殺天使ドクロちゃん」(電撃文庫)である。現在もシリーズとして書き続けられている。
なぜ桜くんが何度となく撲殺と再生との憂き目にあうのかは、ぜひ小説を読み、その理由に爆笑していただきたい。
ウェブサイト「このライトノベルがすごい!」にはすでに、冲方丁(うぶかたとう)によるたいへんに優れた「『撲殺天使ドクロちゃん』論」があるので、そ れとは違う切り口をしたい。
「ドクロちゃん」にもし、文学作品としての賛否両論があるとしたらその中心は、作者おかゆまさきが「天然」か否か、という点である、と思われる。おかゆ まさきは、文体であれキャラクター造形であれ、「これしか書けない」のではなく、「ドクロちゃん」という作品世界を描くにあたり、最適なものを慎重に選ん でいる。
●天然か選択か
この文章を書いていて初めて気づいたことがある。ドクロ「ちゃん」、桜「くん」という愛称をはずしにくいのである。「ドクロちゃん」と、名前と愛称とが セットでないと、字面が落ち着かないのである。その理由のひとつは、地の文がていねい語、デスマス調で書かれているからである。
最初に読んだ際には、正直を言うと、メインとなる読者たちの教養レベルに合わせたのだろうか、あるいはこの文章レベルが作家の限界なのか、などとター ゲットからは大きくはずれた年齢のわたしは失礼なことを思ったが、シリーズ第一巻を、あとがきまで合わせて読了して、考えが変わった。
また、批評する際に、作品以外に材料を求めるのは邪道と知りつつも、作者のウェブ日記「今週のおかゆ」を読み、デスマス調の謎が少しとけた気がした。作 者は絵本などの児童文学を愛好しているらしいが、デスマス調は、その児童文学の文体をライトノベルにもちこんだのではないか、とわたしは思う。作家の力不 足から「天然」でていねいな語調になっているのではなく、作品世界によりよくマッチする文体として、デスマス調が「選択」されている、とわたしは考える。
(中略)
●ギャグとパロディと
「ドクロちゃん」に出てくる、ある言葉から、作者はTBSラジオ「コサキンDEワァオ!」の熱心なリスナーであることが知れる。この深夜番組のリス ナー、特に常連投稿者たちの知的レベル、ギャグセンスのレベルはかなりの高さである。「ドクロちゃん」で放たれるギャグの数々はどれもハイレベルであり、 なおかつその呼吸はラジオ番組のコント的である。作者はこの番組によって……………………このつづきは、コ ミックメガドリーム2004年10月号本誌でお楽しみください(^^)。
コミックメガドリーム 200412月号
ホシノ光栄の書評コラム「ライトノベルが最高だ!」●「涼宮ハルヒの憂鬱」論
●ジャンルX‐ファイル
「ユリイカ9月臨時増刊号 総特集 西尾維新」を読もうとしたけど、とってもむずかしいので両耳から紫色のどろどろした液体が流れ出してしまいました。 ふう。……「撲殺天使ドクロちゃん」を研究して以降、わたしはその文体の影響から逃れられずにいる。のみならず学力や読解力がひどく低下した気がするが、 それはわたしの錯覚にすぎないと信じたい。
不肖・ホシノ光栄、いわゆるライトノベルに開眼して以来、若い友人のアドバイスを助けにアニメやテレビゲームにも触れ、あるときは同人作品を扱うショッ プにおもむき、絶大な人気を博したというPCゲーム「月姫」(ファンディスクなどを同梱した「月箱」収録版)を購入してもみた。……恥ずかしながら「月 姫」はわたしにとっては長大な作品で、今もなおプレイの最中である……。
(中略)
●♪学園天国 ↑古いか
谷川流(たにがわながる)「涼宮ハルヒの憂鬱」(角川スニーカー文庫)は、古典とエクストリームな作品とのはざまにたゆたう、まさに「ジャンルX」の混 沌さを示す問題作である。……自己紹介において「ただの人間には興味はありません」と宣言をするヒロイン・涼宮ハルヒにふりまわされる主人公は、妹を含む 他者からはなぜか「キョン」と呼ばれている……この作品はミステリ的な構成を持つこともあり、これ以上のあらすじを付すことはひかえる。
「涼宮ハルヒの憂鬱」を読んでまず思ったのは、「スニーカー大賞」という文学賞への投稿原稿でありながら、自己の属する「ライトノベル」というジャンル に対して、あまりに批評的にすぎないか、ということだった。
学園を舞台にした青春小説として、ほほえましくも淡々と進む物語が、ゴトリ、と大きな音を立てて動き出すのは、主要登場人物が出そろい、全体の三分の一 を過ぎてからである。読者のなかには、主人公による、涼宮ハルヒという奇人の観察日記のままで終わるのではないか、という不安にかられるひともあるだろ う。そう思えてくるほどにゆったりとしたエピソードの配分である。
中盤までの印象で言えば、メタ・ライトノベルとでも言うべきか、もし本作がテレビゲームになるとすればおそらく「THE ライトノベル」と題されるだろ う。物語が大きく動き出してのち、ライトノベルに「お約束」として登場することどもが、ベタベタと言っても良いくらいに、これでもかと投入されるのを見る うち、これは読者が作品世界に没入する妨げになるのでは、と心配にさえなった。しかしそれはわたしホシノの浅薄な考えだった。
(中略)
●高い技術
プロローグを読みはじめて、さっそくその文体に眼を引かれる。序盤においては、ほかのライトノベルの多くに比して読点(、)が少なめで長い文章が続く が、それはけっして読みやすさを損なうことはない。言語センスが良く、言葉のチョイスが的確なため、むしろその長さが眼に心地よく感じる。ライトノベルは けっして「読解力の低い読者に合わせて書かれ……………………このつづきは、コ ミックメガドリーム2004年12月号本誌でお楽しみください(^^)。
ハ● コミックメガドリーム2004年12月号掲載「裸のコルヌ」抄録
「イヤアハあああっ!」
「アいーあっ! たアっ!」
化鳥のようなかけ声と、カン! カコン! と、木刀が打ち合うような音とが窓のない白い室内に響いている。事実、音を発しているのは木製の武器だが、刀 ではなく、擂り粉木のようなかたちをしている。先端が山のかたちに切り欠かれ、尖ってはいるが、ものを切れるようには見えない……バルマコールと呼ばれ る、インドの古い武具である。若い男女がそれぞれの右手でその武具をあやつっている。
「ふッ!」
「なんのッ! ちえこ姉ちゃん、まだ斜め振りがアマいね!」
肌も露わに、そのバルマコールを振るう美女は、愛染智慧子。美女のお相手をつかまつっているもうひとりは、その恋人、アミール・デウガン少年。彼はトラ ンクスのみで上半身は裸。浅黒い肌はきめ細かい。
アミールはわずかながらも隙を見つけ、智慧子の右胴を狙った。しかし、彼の武具は床に転がり、カラコロと音を立てていた。打たれた音さえ聞こえぬほどの 速い攻撃だった。智慧子はアミールの頭上にふわりと飛び上がり、彼の死角から、神速で打突したのだ。
「ちえこ姉ちゃんにはもう完全に追い抜かれちゃったね。わざと隙を見せたのか……あああああもう! こないだまでぼくのほうが強かったのに! ちくしょ う! くやしいいいッ!」
アミールはぴょんぴょんと飛びはね、涙をにじませて本気で悔しがる。先ほどまでの、剣豪めいた冷静さはみじんもなく、見た目どおりの少年のままである。
「いまのアミールをみんなに見せたいな」
智慧子は、そばの仮眠用ベッドの上からデジタルカメラをとりあげ、レンズカバーを開ける。きゃー、やめてー、とアミールは女の子のような顔を両手で覆っ て逃げまどう。冗談抜きで、この様子が知れたら、アミールが主催する会社は投資家を失うかもしれない。……アミール・デウガン少年は、世界的に知られる、 ビジネス・ソフトウェアの開発者なのだ。
「えいっ。もう逃げられないぞ。ぱしゃ」
防音・防振処理がほどこされた床にアミールを仰むけに組み伏せて馬乗りになると、智慧子は撮影するマネをしてみせた。
「……!」
智慧子はおしりに神経を集中させた。
(中略)
……いまのじぶんの状態と、過去の記憶とが混乱しているのがわかる。智慧子は愛するひとに抱かれながら、白昼夢を見た。
ハハ ハハハ ハハハ ハハハ ハ
……智慧子の目の前を飛んでいるのは、黒ずくめの男……映画に出てくるダーク・ヒーローのような筋骨隆々の男だ。男は全身をぴったりと覆う黒いスーツを 着て、やはり黒く大きな羽根をはばたかせてホバリングしながら、高い塔にむかって両腕を差し出し、念じているような様子だ。智慧子と男から20メートルほ ど離れた塔は、壁そのものが爆弾となって破裂したよに見えた。智慧子は男を「悪」と直観した。
智慧子は、一瞬で男との間合いを詰め、空中に制止したまま、いつのまにか右手に握られていたバルマコールを男の背中に振りおろし、確かな手応えを得た。 男は作業に集中するあまり、智慧子にまったく気づかなかったらしく、不意打ちに身をよじり、胃の内容物をぶちまけながら急降下した。
(中略)
智慧子の両眼がカっ、と見開かれた。
「……! アミール、ごめん!」
「うわっ」
智慧子はアミールをベッドの上にはねとばして部屋を飛び出し、バルコニーへと向かう。
「そこだっ」
窓をあけた智慧子が、右手にひっつかんできたバルマコールを庭に植えられたヤツデのしげみに投げつけようとした、まさにそのとき。
「ニャーン」
獣の白い前脚が葉陰からのぞいている。
「あれっ、ネコちゃん? 邪悪な気配がしたんだけどニャ。驚かしてごめんニャさいね」
「ウニャーン。グルルルル」
声の主がカサカサと音をたてて去っていく。
「ちえこ姉ちゃんの投擲を声で制するとは、ただ者じゃないネコだね」
いつのまにかアミールが、猫眼になっている智慧子の右横にいた。
智慧子がキッチンでマサラティースパイスを効かせたチャイを淹れてトレイに乗せ、さきほどまで愛し合っていた部屋にもどると、アミールはテレビを見てい た。
《……ペルシャ湾岸、イランのブシェール原子力発電所2号炉がイスラエル軍による攻撃を受けた事件は、実は別の第三者によるものだったことを、米国の消息 筋が明かしました。また、鉄骨やパイプが甚大な力でねじ切られており、その破壊の方法は現在も調査……》
アミールはチャイをすすりながら、紙製のフォルダから数枚の写真と、英文のプリントアウトとを取りだした。原発とおぼしき建物の壁から、破片が散らばっ ている瞬間をとらえた写真。しかし爆炎はあがっていない。また、破片以外に宙を舞うものは写ってはいない。
「ズズ……はーっ、おいしい。ほんと淹れるの上手になったねー」
アミールは右に座る、智慧子の顔を見つめた。
「んくんく……わたしにはスパイスがちょっと多かったかな……。イランのチャイはおもしろかったよ。最初に角砂糖を口に入れてから、ストレートを飲む の。……お友だちに渡した写真、役に立ったみたいね」
「背中に羽根をつけた、身長190センチ、体重100キロの人間が、地上10メートルに浮かんだ状態で、原発の建物に向かって1000キロ爆弾に相当する 破壊力を持つなにかをぶつけたらしい。写真がある以上は、信じるしかない……って彼女は言ってた」
プリントアウトには、地面の影や、建物の壁面についた靴跡を分析した、とある。智慧子は、じぶんで撮影しておきながら影にも靴跡にも気づかなかったが、 マークされた影の輪郭は、たしかに羽根のようにも見える、と思った。そう、智慧子の眼は、羽根をはばたかせて宙を舞い、原発に向けて両手を差し出した黒ず くめの男をたしかにとらえたのだ。
テレビの右側の壁には、美しい青空のもとにひろがる、キュロス王によって築かれたペルシャ帝国最初の首都、パサルガダエの写真がかけられている。一週間 前まで智慧子はイランで撮影をしていたおり、原発が攻撃を受けている、という情報を得ると、すばやく軍の警備をかいくぐり現場の撮影に成功した。
「冗談抜きで聞くけど、さっきは発電所を襲った男を思い出していたの?」
アミールは真剣なおももちで問うた。
「……あんな邪悪な雰囲気を醸し出すひとは初めて。パンツァーヴェスタを悪用するとあんなことまでできるなんて……」
「ちえこ姉ちゃんのパンツァーヴェスタとは違うだろうね。特殊な武器を装備している」
「そういえば、イランで飛んだときは、加速のフィーリングがすごく良くなってた。ありがとうアミール」
「どういたしまして」
アミールが天才性を発揮するのは、ソフトウェアだけではなく、ハード方面にも、だった。智慧子が「コーチ」から授かった、鳥の羽根をもつ戦闘服・パン ツァーヴェスタを改良しつづけているのはアミールである。
空をも飛べる特殊戦闘スーツ……MA11パンツァーヴェスタ。「パンツァーヴェスタ」は防弾チョッキ、もしくは鎖帷子を意味するドイツ語である。この戦 闘スーツには完全殺菌迷彩……ステライル・カモフラージュと呼ばれる高性能の錯視装置がそなわっており、それを起動させるとレーダーには写らず、目視もで きない。重力変化や温度のセンサならばかろうじて探知可能である。……ただし影は視認できる。智慧子が発電所で撮影した、謎の影のように。
「でも、二度としないでよ、運転前とはいえ、事件の起きている原発に近づくなんて……! 無事だったから良かったけど」
「わたしが行かなかったら、第五次だか六次だかの中東戦争が起きていたかもよ。ふふふ」
「ううっ……結果的にはたしかに、ちえこ姉ちゃんは『悪』と闘って大きな戦争を回避したかもね。『コーチ』の教え通りに。でも……」
アミールは智慧子を抱きしめた。他者が見たら智慧子の首にぶらさがった、というふうに見えるかもしれないが。
「『悪』と闘うときは、ひとりじゃだめだよ。必ずぼくも一緒にいるときにして」
「……ごめんね、アミール。約束する」
「写真を分析した友だちが言うには、原発攻撃のようなシゴトを請け負う、その筋では有名な傭兵がいるらしいよ。ギデオン・パールマン。たぶんそのひとだ。 どう?」
「……断言できないけど、よく似てる」
キャビネ版に引き延ばされた写真には、スーツがはちきれんばかりに筋肉が盛り上がった白人男性がうつっている。顔を黒色のペンで丸囲みされ、名前が付さ れている。
「そのギデオンというひとは『悪』だね。見つけ出して倒さないと! わたしが出逢ったのは『縁』があったからだよ!」「ぼくは神を信じるけど、運命論者 じゃない。ギデオンには、ちえこ姉ちゃんがいままで倒してきた『悪』とは、まったく違う気味の悪さを覚えるよ。ちえこ姉ちゃんはこれ以上関わっちゃだめ だ。コーチだって、ムチャはするな、とおっしゃっていたよ。ね?」
智慧子は反論しようと口を開きかけたが、アミールの真剣なまなざしに圧倒され、しばしそのまましゃべれずにいた。
「いまのちえこ姉ちゃんは、弱いじぶんを隠そうとやっきになっている。不安がわいたっていいんだよ」
美しい容姿や、とびぬけた才能を持つ者でも、引っ込み思案の者、自信を持てない者は多い。かつての智慧子は、じぶんの精神的な弱さを克服しようと、ある 地での『トレーニング』を受けた。アミールとの出会いの場でもあったその修練は、智慧子を成長させ、相当の自信をつける助けにとなった。いまの智慧子は、 他者から見れば目もくらむほど恵まれた境遇であるだろう。智慧子はそれでも、ときおり大きな不安にかられる。
ハハ ハハハ ハハハ ハハハ ハハハ ハ*
黄昏時、お台場近くの一流ホテル、ボールトンポールの最上階ラウンジでは、洒落のめした若いアベックが何組もバー・カウンターに連なっている。
観葉植物をパーティションがわりにした窓際の一角にふたりの客がいる。お台場の眺望とチャイの味とを楽しみながら、ふたりの白人男性が談笑している。正 確には、談笑しているように見える、だ。会話の内容は深刻だった。
「イッシュ、おれはしくじった。邪魔が入ったとはいえ、成功報酬は受けとれない…………なんだ? この甘い茶は」
「ゴクリ。うーん、じつに美味い。この甘さがチャイの魅力だよ。……でも稼働が大幅に延期されたからね。クライアントは結果に満足してる。気にせず受け とって良いんだよ」
「『ギデオンは手抜きの仕事であぶく銭をつかんだ』という噂が立つ…………イッシュ、髪の毛に木の枝がからまっているぞ」
「ああ、これは失敬。はらったつもりだったけどな……そんな噂なんてどうでも良いさ。誠実だなあ、きみは。女の子の扱いとはエラい違いだ……ふふふふふふ ふふふふふふふ……うっ、ちょっと気分が悪くなってきた。ゴクリ」
イッシュはギデオンの性的嗜好を思い出し、笑ったあとに少し吐き気を催した。
「おれの邪魔をした女は?」
頭が肩にめりこむほどの筋肉に覆われた男性、ギデオン・パールマンが問う。ギデオンの向かいに座る金髪の男性もたくましい体型だが、ダブルのスーツがよ く似合っている。イッシュと呼ばれたその男性はソニーのモバイル・パソコンを開き、女性たちの写真が表示されたモニタをギデオンに向けた。
「調べたよ。あのときイランにいてなおかつ、きみが言った特徴に合致する蒙古人種の女の子は12人。この中にいるかい?」
ギデオンは無言で、智慧子の顔を指さした。智慧子の旅券に貼られているものと同じ写真である。
「やっぱりね……名前はアイゼン・チエコと読むんだ。この国では最近人気がある写真家だ。見ての通り、かわいいしね。たしかにパンツァーヴェスタを持って いる。なぜか、はまだ調べている最中。経歴に半年間の空白があってね」
イッシュは智慧子に関する資料が詰まった、スウェイン・アドニー・ブリッグのアタッシェケースをギデオンの足もとに置いた。
「ここからは正式な仕事の依頼だ。愛染智慧子コミで、パンツァーヴェスタを手に入れてくれ。きみにプレゼントしたアインザッツ・ヴェスタとはかなり違う スーツだ」
「犯して殺す」
「ギデオン、そういう表現は無しだっていったろう? 公共の場所なんだから……発電所のときみたいに『愛染智慧子しか撮影できない』状況をつくれば、カメ ラをかついで飛んでくるだろう……おっと。この国ではこういうのを『釈迦に説法』と言うんだっけ。細かいところはまかせるよ」
「股から裂いて干物にしてやる」
「ダメだってば。生け捕りじゃないと」
「イッシュ、この女の件に関しては、おまえが直接の依頼人だろう? 譲れ」
「依頼人が誰かは言えない。生け捕りにしてくれないと、ほんとに悪い噂が立つよ? アインザッツ・ヴェスタも返してもらわないと」
「……脅すのか……このおれを……」
イッシュは、じぶんを睨むギデオンの眼を見た。白目の部分は充血しているのか、もはや赤黒くまでなっている。ただでさえ剣呑な雰囲気を醸し出すギデオン の眼が、空気の温度を急激に下げるほどに光を増した。そばの観葉植物が一瞬で枯れ、葉がすべて落ちた。
「つぎは油断しない」
「生け捕りは難しい。特にこの子はパンツァーヴェスタまであやつる。かわいがるのは自由だけど、ボーナスをはずむから頼むよ。……あ、いや、はずむように 伝えるよ」
「…………いいだろう、生け捕りにする」
「ニャーン」
イッシュはどういうつもりか、右手をクイクイと振り、微笑んで答えた。
「さあギデオン。機嫌を直して『愛染智慧子しか撮影できない』状況をつくってよ。観光する間も惜しんで仕込みをしてくれたんだろ?」
「……」
ふたりの席からは、50階建ての偉容を誇るデファイアント・ホテル・ビルディングが見えている。完成間近で、用が済んだ最後の小さなクレーンを解体中で あった。ギデオンは右手を窓に向け、手刀で斜めになぎ払うマネをして見せた。すると、そのホテルの最上階から35階にかけて、袈裟懸けに切れ目が走り、ビ ルはふたつに分かたれた。上のパーツは、ほとんど原型をとどめたまま、小さなクレーンとともに地面へとすべり落ちていった。
「見ろ! ビルが!」
「きゃーっ!」
ズズズズズズ、と大きな振動がラウンジの床をくまなく駆けめぐった。
(中略)
ラウンジはいまや阿鼻叫喚の様相を呈している。各所でガチャーン、パリーン、キャー、ドウエー、とけたたましい音や悲鳴が響いている。窓の外は黄昏時の 暗さに加えて、巨大ビルの倒壊による、煙のような粉塵にさえぎられ、もう何も見えない。たがいのパートナーを放り出し、われ先にと出入口で押し合いへし合 いしている暴徒と化した若き人民に、フロア・サービスの女性が、髪の毛を引っ張られたりエプロンを破られたりしながらも、懸命に呼びかけていた。
ハ(中略)
「原発もお台場のビルも、ギデオンの仕業だとして、どうやって壊したんだろうね? 『鉄骨やパイプがねじ切られていた』っていうのは、爆弾じゃないのか な」
「超能力だよ。念力さ」
信仰を別にすれば、0と1との世界に生きるはずのアミールは、オカルトじみたことをあっさりと言ってのける。
「……わたしのパンツァーヴェスタだって、かなり非現実的なシナモノだけど、超能力だなんて……」
「起きている現実を受け入れるとそうなるだけ。念力にしたって、なんらかの物理的なはたらきかけの結果だよ。超常現象とはいえ、必ずタネも仕掛けもある。
友だちの調べでは、ねじ曲げられただけでなく、すぱっときれいに切られたものもあったらしい。念力でレーザー光線を発生させたり、超音波振動を起こした りしてるんだろうね」
まさか、と智慧子は思うが、天才少年であるアミールならまだしも、智慧子にとってはパンツァーヴェスタも魔法のローブに等しい。
「わかった、アミール。わたしも現実を受け入れるよ。敵は手段を選ばない、超能力者」
事件のほぼ24時間後、ふたりは、アミール少年が智慧子にプレゼントした、ピニンファリーナ・Enjoyという超高級オープンカーでお台場のビル倒壊現 場に向かっている。世界に75台しかつくられていない車なので、札束を積みさえすれば買えるわけではない。この車はフロントガラスがなく、ドライバーが風 に直接さらされるため、ふたりともEnjoy専用のヘルメットをかぶり、それに装備されたマイクロホンとスピーカとで会話をしている。
「ちゃっかりもらっておいてから言うのもナンだけど、いまだに分不相応な感じがするわ」
「ちえこ姉ちゃんは選ばれたひとなんだから、それに見合った車に乗らないと。国産車のほうが良かった?」
「この車はロータス・チューンとはいえエンジンはトヨタだよ。ビバ! トヨタ! ビバ! パニス! ……アミールがわたしに選んでくれたんだから、どんな 車でもうれしい」
アミールは「ちえこ姉ちゃん」という女性ではなく、「写真家・愛染智慧子」の才能に敬意を表して、この車を送ってくれたのだ、とじぶんを納得させてい る。
「アミール、わたし、ほんとうに才能がある?」
「なにをいまさら。打ち合わせのたんびにファンレターいっぱい受けとってくるじゃないの」
「この国ではね、アミール。ときどき能力の評価に、ルックスとか、別の要素が大きく加味されるの。特に女性の場合はね。
わたしはたまたま……じぶんで言うのもナンだけど、ちょっと見栄えがするから、得をしていると思うの。わたしなんかより優秀なカメラマンはいっぱいい る」
「ルックスも才能のうち。神がちえこ姉ちゃんに必要だと考えたんだよ、コルヌコピアをさ」
コルヌコピアとは、ギリシャ神話にある、世界中の富を集め、それを溢れ続けさせると言われる魔法の角のことである。智慧子は、アミールが見せる無条件の 信仰心をまぶしく思う。智慧子は「トレーニング」の成果として、多少の自信を手に入れたが、いまだに不安からは解放されない。それは信仰を持たないゆえで はないか、と思えてくる。
「素敵な写真や文章でひとを幸せにできることこそ超能力だよ」
アミール少年は誰に習ったのか、こっぱずかしい賞賛を真顔で言える。
デファイアント・ホテルが見えた。
「……現場への道路はどこも封鎖されているのね。当然か」
「ぼくが運転する。道を空けておいてくれる?」
「ROGER」
智慧子はヘルメットを脱ぎ、パンツァーヴェスタを起動させた。……首、肩、羽根の基部がある背中の上半分、脇腹と、下腹部とに、防御と制御のためのパー ツがあり、起動とともに、透明なデータ・スキンが形成され、それまで露出していた部分を覆った。そして、鳥のような白い羽根を展開させ、真上に向けて飛ん だ。
「もう罠の範囲に入っているかもしれない。油断しないで!」
のどに貼った小さなスロートマイクロホンとイヤホンとで通信はできるが、智慧子はアミールに了解を示すため、右手の親指を立てた。その直後、ステライ ル・カモフラージュを起動させる。ヴーン……と数秒間、蜂の羽ばたくような音のあと、智慧子の姿は、消えた。智慧子の速度は一瞬で時速300キロにまで達 した。急激な重力変化も、パンツァーヴェスタの緩衝装置が和らげてくれる。
道路上を当局の特殊車両が封鎖している。智慧子は音もなく着地し、羽を小さくたたんだ。「そのばかデカくて淡い青のクルマをどかしてくれる?」
アミールは運転をしながら、智慧子から送られてくる映像を見つつ指示をした。透明人間となった智慧子は、消防車のようなかたちの高所高圧放水車 に…………………このつづきは、コ ミックメガドリーム2004年12月号本誌でお楽しみください(^^)。
● コミックメガドリーム2004年10月号掲載「紅い制服の処女 前 編」抄録
儀式が行われようとしている。
その部屋にともされたあかりは三本のロウソクのみで、ひどく暗いために四方の壁がどれも見えず、広さはよくわからない。
床の上に描かれた図は、魔法陣のように見えるが、なぜか特殊相対論の公式らしきものが断片的に配されている。
●●の美少女が両手で●●を隠して立っている。年齢には似合わず、欧米の女性のような、すぎるくらいに豊かな、かつ優美な曲線を描く胸と、きゅっと締 まった●●●とが目立つ。
三人の、これも美しい少女が●●の少女を囲むようにひざまづいている。三人とも、頭巾のついた茶色のカプチン──僧衣──に身を包み、素足に粗末なサン ダルをはいている。魔法陣のような図から少し離れたところに、また別の美少女が、眼を細め、微笑を浮かべてその様子を眺めている。彼女もまたカプチンを着 ているが、それはひとりだけ白い色だった。
●●の美少女が、頬を赤らめながら、白い僧衣の少女に言った。
「……亜沙子さまに選んでいただけるなんて、光栄です。ゆうべは眠れませんでした」
「いまのわたしの名はアンジュ。そう呼んでちょうだい。同じように、この場では、あなたの名前はユージェニよ。美しい名前でしょう?」
「! ……失礼しました、アンジュさま……すばらしい名前を賜り、感激です……」
アンジュと名乗った少女は、●●の少女、ユージェニの前でひざ立ちになると、彼女の手をそうっとどかせ、●●に●をすべらせた。
「●●……●●●●! あ……アンジュさまっ! ●●……●●●●……●●……」
ユージェニは、未体験の激烈な快感に、すぐに腰の力を失い、倒れかけた。それを三人の少女がすぐに支える。……ピチャピチャ、くちゅくちゅ、とひどく ●●な音を立てて、ユージェニの●●や●●●●●をひとしきりさいなむと、アンジュは言った。
「ふふ……とってもよくってよ、ユージェニ……男性をふたり●●していますね。ふふふ」
いつのまにか、男が部屋の中にいた。彼もユージェニと同様に、●●だった。黒い仮面をつけており、それが隠しているのは眼の周りだけで、顔全体を想像す るのは容易だった。
「ユージェニ、もうひとつ、あなたの適性を見させていただきますよ。いろいろなかたのお相手ができるかどうか……」
●●の男はユージェニのすぐ前に立った。●●●は反り返り、拍動している。●●●はつけられていない。ユージェニがそれをうっとりとした眼で見つめてい る。
「あら、何の心配もなさそうね。ふふふ。どうぞ、ご遠慮なく。ぞんぶんに●●●●なさい」
アンジュにうながされると、ユージェニは赤黒い●●に唇でそっと触れると、それをいっきに●●●●●●●●●●。
(中略)
「……すばらしいわ。あなたは『クラスR』のユージェニとして、わがシクヌス会に入会していただきます。よろしくね。ふふふ」
ハハハ ハハハ ハハハ ハハハ ハハハ *
小高い丘の上に、その修道院は建っていた。
入り口そばの石塀には「ヒプノシス修道院」という奇妙な名の表札が掲げられている。
前庭にはコスモスが咲きほこり、その中で白黒の日本猫が丸くなって寝ている。その庭を見わたす廊下を、深紅のブレザーを着た少女が、姿勢良く歩いてい る。ここに暮らす修道女のひとり、佐賀めぐみである。めぐみは、修道院長であるシスター・ファタリテに呼ばれ、彼女の執務室を訪れるところだった。
めぐみが修道女の服ではなく、ブレザーもミニスカートも、ハイソックスまでもが深紅という派手な制服をまとっているのは、今回、彼女が遂行すべき「ミッ ション」に必要だからだ。
めぐみは、脚は長く、からだの均整はとれているが、155センチと、同じ年齢の娘たちよりは少し小柄で、キューティー・スレンダー系の美少女である。髪 の毛は、重く見えるほどのつややかな漆黒で、ボリュームのある短髪。黒目がちの大きな眼。そのかたちは、びっくりした子猫の眼のように丸い。
めぐみはドアをノックし、名を告げた。
「めぐみです、シスター・ファタリテ」
「おはいり」
めぐみが入室し、天然マホガニーの大きなデスクの前に立ったとき、そのデスクの上、向かって右端に置かれた電話機が、赤いランプの点灯とともに鳴った。 めぐみは不吉なものを感じ、二回めのコールが鳴らないうちにとびついた。
『……プロント? パルロ、コン、イル、シニョリーナ、メグミ?』
受話器からめぐみの耳へと、外国語が流れこんできた。めぐみの口はよどむことなくその声に応対した。
「……シ、……シ、ソノ、メグミ。コメ、イン、クエスティ、ウルティミ、テンピ?」
めぐみは、シスター・ファタリテに電話をとりついだ。長い脚を派手に組んだ修道院長は、マリオ・ベリーニの高級ビジネス・チェアをゆっくりと回しつつ、 会話をはじめた。
「オー、ソノ、ファタリテ。コメ、ヴァ、イン、クエスティ、ジョルニ?」
この修道院には、ヴァチカン市国にある、教皇宮殿とのあいだにホットラインが設置されている。異端中の異端会派に属するこの修道院に、ヴァチカンが助力 を求めるようになって久しい。映画などでは強大な権力をふるう謎の結社として描かれるヴァチカンだが、その弱体化がしのばれる。……たとい一度に幾千の犠 牲者が出ようとも、歴史がテロリズムによって変わることは決してないが、社会のしくみには、やはり影響があるのだろう、とめぐみは思っていた。
電話を終えた修道院長が、マリオ・ベリーニをくるりと回してめぐみに向かい、言った。
「めぐみ、べつに不吉な知らせではありませんよ。遺体の身元が確認されて、北アイルランドの件が解決したそうです。あなたにもたいそう感謝しておられまし た」
「もったいないお言葉に存じます」
執務室の壁、修道院長の座るうしろに目をやると、オアシスのヴォーカリスト、リアム・ギャラガーがマイクをつかんでいる、B全判のポスターが貼られてい る。めぐみもiPodにすべてのアルバムを入れて持ち歩くほどの、オアシスのファンなので異存はない。
そのポスターの向かって左には、A3サイズのリストが貼られている。……アクシオン・ディレクト、ブリガーテ・ロッセ、エル・ゲー・ブント、ロシアン・ マフィア・サハリン・ブランチ、ヴィクトリー・オブ・リバティー・ポピュラー・アームド・フォーシズ。……リストの左横にはチェックボックスがあり、その 中に、バツ印や三角マーク、クエスチョン・マークなどが手書きでつけられている。
シスター・ファタリテは20代の若い女性で、修道女でありながらタイトなスーツにミニスカート姿で、教え子を誘惑したあげくに破滅せしめる女教師風。誘 いをこばめばムチをふるわんばかりの雰囲気である。いや、めぐみと同じ年頃には、実際にムチをふくめた各種の道具をふるって、「地獄のファタリテ」という 異名を轟かせていたらしい。それに比すればいまはさしずめ天界の、だろうか。
『人生は短い。全力で楽しもう、若人たちよ! カンターレ! マンジャーレ!』
というのが、彼女の口癖である。人生を楽しまんとする人間がなにゆえ修道院に? という、いたって素朴な疑問をめぐみは抱いてしまう。
シスター・ファタリテは、電話のときにみせた楽しげな顔から、一転して真剣な表情になり、めぐみをいたわるようにゆっくりと言った。
「めぐみ、休暇を取りなさい。もちろんその間も報酬が支給されます」
修道女の中から選抜された、シスター・ファタリテのしもべの中で、ほとんど休みなく「ミッション」に従事するのは、いまはめぐみだけだ。かつてめぐみに 近いほどに多数のミッションをこなした者も幾人かはいたが、彼女らはみな例外なく心身のバランスを崩し、期間のちがいはあれど、専門家の治療を余儀なくさ れた。
「ひきょうな言いかたになるけれど、ミッションはけっして強制されるものではありません。特に今回は、相当に苦しいものとなるでしょう。断ってくれて良い のですよ」
院長が、これほど心配してみせるのは珍しい。今回のミッションで相対する組織が、難敵であることがめぐみには予想された。
「武力が充実した組織なのでしょうか?」
「その方向ならむしろ心配はしません。めぐみならばうまく切り抜けるでしょう、北アイルランドの件のように。……いま、捜査を依頼されている組織は、例に よってロシアン・マフィアが運営する『特殊な売春グループ』のひとつ、と思われますが、秘密主義が徹底していて、情報提供者の開拓に苦労しました」
「潜入できる状況が見えたわけですね?」
「そうです。ある善意のひとが、危険を冒して組織の内部に深く食い込み、情報提供をしてくれるようになりました。彼……若い男性ですが、いまのところわれ われの直接の支援も、もちろん当局の助けもなしに行動しています」
「わたしのミッションは、捜査のみならず、状況によっては、情報提供者の救出も含まれるわけですね?」
「繰り返します。休暇を取りなさい、めぐみ」
修道院長は、めっ、とこどもを叱るような眼をして、めぐみをにらんだ。
(こんなすてきなひとが、わたしのお姉さんだったらいいのにな)
めぐみは、じぶんの身の危険に関する話の最中だというのに、つい、そんなこどもじみたことを考えてしまう。めぐみが捜査活動──「ミッション」──の連 続にあっても心身のバランスを崩さずにおれるのは、このタフネスさ、悪く言えば図太い神経のおかげかもしれない。
「『特殊な売春グループ』は『グリーンバック』ですね? いままでも『クラスV』として何度も潜入に成功しました。やらせてください」
「今回は特に危険です。あなたのヴァージンが失われるかもしれませんよ」
「かまいません」
めぐみはかつん、と靴を鳴らして芝居がかった敬礼をし、深紅のスカートをひらめかせ、さらりと応えた。
ハハハ ハハハ ハハハ ハハハ ハハハ *
聖アヴェティック学園のランドマークは、天空を指さすごとくそびえたつ、バロック建築の時計塔である。その美しい時計塔を見下ろせる公園に、情報提供者 が待つはずだった。
めぐみは、接触地点である、学園全体を見わたせる展望台の風景に、既視感を抱いた。こけむした石積み。ところどころ欠けている煉瓦。空中に浮いているよ うに錯覚させる眺め。
情報提供者がいた。その少年は、細身でやや頼りなさげだが、スポーツをしているのか、つくべき筋肉がきちんとある。顔立ちこそ平凡だが、賢さと優しさと をそなえ、育ちが良い印象を与える表情をしている。制服である深紅のブレザーは右腕にかけ、ネクタイをゆるめ、手すりに腰をもたれさせ、めぐみのほうに横 顔を見せている。いかにも公園の緑と、時計塔の景観とを交互に楽しんでいる風情である。
めぐみは、時計塔を正面に見ながら、少年のすぐ右横まで近づき、手すりに両手をかけた。少年はからだの向きを変え、時計塔を見つめながら、話しはじめ た。
「……写真の印象より、はるかにきれいなひとだったので、びっくりしました」
「こどもっぽくて頼りなく思えますか?」
「……まさか! そう思ったらここには来ていません。……シスター・ファタリテは、ぼくの信頼するひとを通して紹介してもらいました。あなたがたなら、ぼ くの話を真剣に聞いてもらえると信じていました」
「そのご期待に、必ずお応えします」
少年は、めぐみがそばに寄った最初のうちこそ、白い光を放つようなその美貌に気圧された様子だったが、いまはもう落ち着いている。
(もう少しどぎまぎしてくれるとうれしいのにな。ふだんから美しいひとたちに囲まれて、わたし程度のルックスは見慣れているのね。んもう、くやしいなあ。 くすん。あら、わたしったら自信過剰。神さま、ごめんなさい)
めぐみは、心の中でじぶんの頭をこづいた。
「布施要です。どうぞよろしく」
「わたしは、いまから星川めぐみを名乗ります。そう呼んでください」
「名字だけを変えるんですね。わかりました」
きょうの接触にさきがけ、布施少年には、めぐみの外見などの連絡事項が、スパイよろしく、とある墓地の街路樹に設置されたデッド・ドロップ──情報や物 資の受け渡し場所──を使って伝えられていた。布施少年が情報提供を申し出て以来、彼とヒプノシス修道院とは、こうした迂遠なやりとりで交流がはかられて きた。
めぐみは、ふと、少年のブレザーに目がいった。ポケットから白いiPodがのぞいている。
「音楽がお好きなんですか?」
「ええ、オアシスをよく聴きますね」
! めぐみは、ぴょん、と飛び上がって空中で踊りそうになった。オアシスを聴くなら、きっとザ・ビートルズも好きだろう。それからそれから……熱く語り たい気持ちを、めぐみはかろうじておさえ、事務的な話に切りかえた。
「デッド・ドロップに、現金など、万がいち、遠くへ避難する際に必要なものを用意しました。あとで回収してください。ご家族の安全は、わたくしたちが保証 します」
「……まだ証拠がつかめない。素顔の写真がついた顧客リストの場所はわかっている。組織を離れるのは、それを手に入れてからにしたい」
それまで笑みを浮かべていた少年は、急に眼を細めて時計塔を強く見つめ、決然と言った。
顧客リストが存在する。顔写真入りの。めぐみの心臓が、どきん、と大きく跳ねた。顧客の行動記録と照らしあわせ、裏がとれれば重要な証拠となる。そし て、めぐみの潜入が成功すれば、いっそう、その情報の正確さが高まる。頼りなさげな布施少年が、めぐみの眼には急に大人びて見えた。
「ぼくはもとより、覚悟の上です。めぐみさんこそ、確かな紹介状があるとはいえ、この時期に学園に来ては『シクヌス会』に警戒されるでしょう。ぼくも努力 はしますが……ひとりになるときは、護身用の道具をなにか持っていたほうが良いですよ」
めぐみは、深紅のミニスカートをするり、とめくりあげた。布施少年の眼に、みずみずしい弾力と、もちもちした感触とを想像させる太腿が飛びこんだ。彼は 眼をしばたたせたが、すぐに冷静さを取りもどした。めぐみが彼に見せようとしたのは、黒革のホルスターに納められたものだとわかったからだ。……めぐみは もちろん、脚線美も見せたかったのだが。
「……ペッパーボックス……?」
布施少年は、そんな安物で大丈夫? と心配そうな顔をした。
「ご心配なく。スペシャル仕様の銃です」
めぐみが右腿の外側につるしているのは、COP357という、4連発の、銃身の短い小型拳銃である。名前の通り、拳銃弾としては強力な、火薬量の多い 357マグナム弾が使えるが、布施少年の思ったとおり、本来ならばけっして高級な銃ではない。しかし、めぐみが自慢したとおり、めぐみの使いかたに合わせ て設計しなおされ、新素材も使われて「COP357改」ともいうべき特別仕様になっている。
布施少年の言った「ペッパーボックス」とは、銃口の束が胡椒容器のように見えることからつけられた、銃のカテゴリー名である。ペッパーボックスは、総弾 数は少なく、その構造上、命中精度にも期待できないが、そのコンパクトさから、女性の護身用として愛用されている。
「顧客リストを手に入れるまで、粘りましょう。ただし、わたしが危険、と判断したときは、わたしの指示に従ってくださいね」
「…………わかりました」
しばらくの沈思のあと、布施少年は応じた。
ハハハ ハハハ ハハハ ハハハ ハハハ *
「この展望台は好きなんです。『ルーンズ』という映画に、よく似た場所が出てくるので」
布施少年は、急に話題を変えた。ルーンズ。そうだ、さきほど覚えた既視感は、あの映画を連想したからだ、と、めぐみはようやっと思い至った。……「ルー ンズ」は、ある日本人の映像作家が、アルメニアを舞台につくった芸術映画だった。まるで別の惑星で撮影されたがごとくの美しいイメージが、奔流となって観 客をのみこむような映画だった。鉄分が溶け出し、血のように赤くなった水が流れる岩肌を、白い服をなびかせてかけ降りる少女の姿が、めぐみの印象に強く 残っている。映画は限定上映されたのみで、いまだソフト化されていない。
その映像作家は、難解な芸術映画はそれ一本のみを残し、以降は大衆娯楽路線に転じた。しかし映像の美しさにはいっそうの磨きがかかり、いまでは世界的に 高い評価を受けている。めぐみは、彼の作品のどれもが大好きだった。
「音楽だけでなく、映画の趣味も合うみたいですね。わたしも大好きです、あの映画」
そう言っためぐみの声は、少し震えていた。
「えっ!? ……あの映画について語りあえるひとに初めて会いました……ひょっとしたら、めぐみさんとは、映画館で、すれ違っているかもしれませんね」
布施少年は、声こそ震わせたりはしていないものの、頬を紅潮させて、うれしそうにめぐみに笑いかけた。いくつかの好みが共通するだけで、運命的な出逢 い、とするにはあまりにおおげさすぎる、でも、こんなに素敵に感じる男性に逢ったのは初めてだ、とめぐみは思った。
ふたりは、必要事項の確認がすみ、予定の時刻をすぎても、一分でも惜しむかのように、話しこんだ。音楽のこと、映画のこと、まんがや小説のこと。親友ど うし、もっと言えば、恋人どうしのような気持ちになれた。
しかし、楽しく会話できるのも、これが最初で最後の機会だろう、とふたりはともに思っていた。こののち、すぐに学園の中で、何度となく顔を合わせること になるが、それは、とても厳しい状況のもと、ということを、ふたりともよく理解していた。
ハハハ ハハハ ハハハ ハハハ ハハハ *
「マダムFに確認をとりました。問題ありませんね。……それにしても、圧迫感を覚えるほどの美貌ですね。なんて可憐なのかしら……」
衣服をすべて●●●、●●となっためぐみを手ばなしでほめるアンジュ……久間亜沙子こそ、衝撃的な美女だった。年齢的には美少女と呼ぶべきだが、めぐみ とは一歳の差でありながら、すでに完成された女性美を誇っている。
……めぐみよりも15センチ近く高いだろうか、その長身の半分以上を占める脚が、深紅のマイクロミニスカートからすらりと伸びている。男の視線をひきよ せてやまない豊かな胸が、ブレザーの制服に、きつそうにおさめられている。ブラウスはその胸にひっぱられ、ボタンとボタンとのあいだから、胸の谷間がのぞ いて見える。髪の毛は淡い栗色。ゆったりとしたウェーブのかかった、腰まで届くロングヘアである。
つりぎみの大きな眼はきれいなアーモンド型だが、ややきつい印象をあたえる。しかし、それを相殺するやわらかな唇は、つねに微笑を絶やさない。めぐみは 思わず口を小さく開けたまま、亜沙子の顔を眺めてしまった。圧迫感を覚えているのはめぐみのほうである。
「バンパネラ、メデューサ、モナ・リザ。これほどに美しい娘を見たことがあって?」
「アンジュ」と同様の、エイリアス──別名──で呼びかけられた、めぐみを囲むように控えていた三人の美少女たちは、めぐみの●●に魅入られたのか、そ ろって放心していた。アンジュの声に、はっ、となったバンパネラがかろうじて答えた。
「……アンジュさまに匹敵する……いえ、アンジュさまの次に美しい、と思います」
「まあ。お世辞でもうれしいわ、バンパネラ。でも、めぐみの顔やからだには、嫉妬するのも忘れるくらいに純粋な美があります。男のかたにとっても、わたく したち同性にとっても理想とする美しさです。そうではなくって?」
バンパネラたち三人は、はい、と声をそろえた。これは本心からの同意だった。
巨大な売春組織「グリーンバック」に属する各グループに、少女や客を斡旋してきた「マダムF」なる人物は確かに存在した。しかし先日、シスター・ファタ リテの卑劣な罠にかかり、現在は、北アイルランドにあるケッシュ刑務所に収監されている。その事実は秘匿され、グリーンバックには知られていない。シス ター・ファタリテはマダムFにまんまとなりすまし、めぐみに、「本物」の紹介状を持たせた。
久間亜沙子は、この聖アヴェティック学園を拠点にグリーンバックに属する「シクヌス会」を組織し、マダムFにたよるだけでなく、みずから美しい少女たち をオルグし、高級売笑婦に仕立てあげていた。
めぐみの●●は、ロウソクのあかりのみに照らし出され、淫靡な陰に彩られている。
シクヌス会の主催者、アンジュが、めぐみの●に●を●●●れる。
「あっ……! ●●●……ふう……うっ」
めぐみは眉をひそめ、思わず●●●を後ろにひいた。アンジュの中指は、それにかまわずめぐみの●●を●●●●●●。すぐに、めぐみの頬は紅潮し、汗がふ き出てくる。
「●●●は●●ていませんね。でも柔軟な●●●を持つ娘も多いから、まだわからない……」
つぎにアンジュは、めぐみの●●に舌を●●●れ、体液の味とにおい、舌の触感とで確認する。めぐみは、あまりの快感に……………………このつづきは、コ ミックメガドリーム2004年10月号本誌でお楽しみください(^^)。
●コミックメガドリーム2004年10月号掲載「紅い制服の処女 後 篇」抄録
「ビロード革命の中心人物、ヴァーツラフ・ハベル氏は、チェコ大統領の在任当時、『若い世代に期待している』と発言しました。ひるがえって、この国の指導 者たちはわたくしたち若い世代に期待をかけているのでしょうか」
聖アヴェティック学園の時計塔前に広がる芝生の真ん中には、ハイド・パークのスピーカーズ・コーナーよろしく演説台が据えられている。
そこではいま、久間亜沙子が遠くまでよく通る声で、三十人ほどの聴衆にむかって語りかけている。めぐみもその聴衆の中にいた。
めぐみがタイミングをはかって、
「異義なし!」
と声をかけるたび、拍手が湧く。そうすると、亜沙子はいっときめぐみのほうを向き、にこっ、と笑ってみせる。
布施少年がヒプノシス修道院にもたらした情報の中で、めぐみが驚いたのは、亜沙子は「シクヌス会」を組織するずっと前から、時間を工面しては貧民街にお もむいて、炊き出しや医療支援などの奉仕活動に従事している、ということだった。……亜沙子がいずれ、管理売春の咎によって審判の場に立たされたとき、こ の奉仕活動はきっと亜沙子にとって有利になるだろう……めぐみはそんな計算をしてしまった。
(ひとつ確かなことは、りっぱなことを言うだけの大人よりも、亜沙子さまのほうがはるかに、この国の、ひいては世界の行く末を真剣に考えていらっしゃる、 ということだわ。……亜沙子さまの『革命』が正しいか、は別として)
めぐみは演説を聴きながら、亜沙子のベッドに初めて誘われた夜を思い出していた。
「亜沙子さまのおっしゃる革命が、万がいち暴力を伴うものならば、お力にはなれません。申しわけありません」
亜沙子のオルグに対し、めぐみがきっぱりと返答すると、亜沙子は、
「……そうですか。……わたくしこそ、とつぜんにこんな話を切り出して、めぐみを困らせてしまいました。許してね、めぐみ」
と、まだ汗に濡れる、裸のめぐみを抱きしめ、謝罪までしてみせた。
亜沙子が所属すると告白した「自由人民軍の勝利」は、ヒプノシス修道院が、最重要国際テロ組織としてマークしている団体である。複数の国家による手厚い 支援を受けているとされ、主要各国で、合計五千人を超える犠牲者を出すテロを行ってきた。
北アイルランドで「自由人民軍の勝利」によって画策された大規模なテロは、派遣されためぐみの神出鬼没&孤軍奮闘により、未然に防がれた。しかし。先日 ベルファストで遺体が本人のものと確認された、テロの首謀者レオニード・イリイチの、素顔を含めた詳細な履歴は、いまもって不明である。
亜沙子との情事のあと、冷静になっためぐみは、亜沙子の口にした「自由人民軍の勝利」という単語に慄然とした。当面のミッションにおける敵、そして修道 院の仇敵。亜沙子はめぐみにとって二重の意味で敵となってしまう。
(亜沙子さまには、暴力のうずまく世界に足を踏み入れさせてはいけない。犯罪組織を砕くのみならず、亜沙子さまをまっとうな世界にひきもどすのも、わたし のミッションだわ)
めぐみは亜沙子の演説に拍手しながら、そんな使命感を抱いた。
ハハハ ハハハ ハハハ ハハハ ハハハ ***
亜沙子が熱弁をふるった、その夜。めぐみは亜沙子の私室に呼ばれた。亜沙子は半身だけを起こし、制服のまま天蓋つきのベッドに横たわっていた。間接照明 の暖かい光に彩られた亜沙子は、ますます美しい。
ベッドのわきには、過激なデザインのブリーフだけを身につけた布施少年が立っていた。
また、黒仮面はつけず、素顔のまま。いまは「ノエル」ではないようだ。
(まあ、カルヴァン・クラインのテック・クールマックス。おしりが丸見え! 布施くんの好みとは思えない。きっと亜沙子さまの趣味ね)
「よく来てくれました、めぐみ。安心してよくってよ。今夜は難しいお話は無し。いまのわたしはアンジュではなく、亜沙子。わたくし個人のことを、めぐみに もっと知ってほしいと思ったのです。……ノエル、いえ、要さん、●になって、楽になさって」
! めぐみの心臓が高鳴った。布施少年の●を見るのは、入会儀式のとき以来である。
はい、と答えた布施少年は、めぐみをチラリと見てブリーフを脱ぎ、そばの椅子に置くと、めぐみのほうへと歩み寄った。めぐみの視線は彼の●●にひきよせ られる。
(このまま、亜沙子さまに見つめられながら、ひと晩じゅう布施くんと●●●のかしら)
と、一瞬のうちに四十八手、さらには七十二手まであるとされる●●の●●を想像し、恥ずかしさと期待とに、頬を紅潮させた。
「その●●帯を、めぐみにつけてあげて」
! 亜沙子の言葉に、めぐみが左側を見ると、小さなテーブルの上には、いまはもうすっかりからだになじんだ、ハイテク仕様の●●帯が置かれている。
●の布施少年は、はい、と応えると、めぐみの後ろにまわり、服を●●●はじめた。
(ああ……期待をしてしまった。そうよね。わたしはクラスVの●●●、●●●●は許されない。『わたくし個人のことを、もっと知ってほしい』と亜沙子さま はおっしゃった……)
めぐみは落胆したが、布施少年の手で●にされることで、●●の興奮はたかまっていく。
布施少年は、手慣れた様子でつぎつぎと●●●●めぐみの衣服を、やはり椅子に置いた。
布施少年の手が、●●●の●●●●●にかかり、ホックをはずすと、ちょうど布施少年の手に収まる大きさの●●●●●が、●●●、と●●●●●●になる。
(あっ……●●に……●●●欲しい……)
めぐみの心の声は届かず、布施少年の手は次に、●●●の●●●●を太腿へとずらしていく。
(中略)
亜沙子の息が徐々に浅くなり、急速に眠りに入っていくように見える。涙に濡れた顔を横に向けた亜沙子はやがて、スウスウと、寝息をたてはじめた。布施少 年はシーツに両手をつき、亜沙子に覆い被さる姿勢をとると、横座りしているめぐみに目配せをした。
(はい、布施くん)
めぐみはすっかりだるくなった腰を苦労して持ち上げ、そうっとベッドから滑り降り、深呼吸をした。呼吸が整うと、めぐみは隣の続き部屋につながる、ドア のない出入口を、足音も立てず神速で通り抜けた。その際、椅子に置かれたスカートのポケットから、小さなカメラと薄手の手袋とを取りだしていた。チラリと 亜沙子に目をやる。亜沙子は顔を反対側に向けており、豊かな髪の毛しか見えない。
(亜沙子さまは、いくつもの秘密をわたしに明かしてくれたというのに。心が痛む……お許しください、亜沙子さま)
いっときめぐみは本気で、シスター・ファタリテを、修道院を、布施少年をも裏切ろうか、とまで考えた。
布施少年が、危険を承知で情報提供者になったのも、亜沙子を更生させたい、という健全な友愛の心から、であろう。しかし。
……ひるがえってじぶんはどうか。めぐみは、おのれの不健全な情熱を抑えられずにいた。
(亜沙子さまには、しましまの囚人服は似つかわしくないわ。いっそ、国外逃亡のお手伝いをしようかしら。潜伏先は、南フランスの田舎あたりがいいでしょう ね。物価は安いし、食べ物はおいしいし、気候は良いし)
などと不穏なことを、かなり具体的に考えてしまう。いまどき白黒・横じまの囚人服などはコントの中にしか存在しないだろうが。
「シクヌス・ファイル」ともいうべき顧客リストはデータのかたちでは存在しない。布施少年の言ったとおり、デスクそばの本棚に、無造作に差されていた。 ルーズリーフ状の帳面が金属のリングで綴じられ、本革のカバーがつけられている。日記帳によく見られるタイプだ。表側には「あさこのひみつ」と、まるもじ フォントで表題がプリントされている。
(まあ。亜沙子さまったら、お茶目さん)
B5サイズとやや大ぶりだが、いかにもひみつ日記らしく、頑丈そうな錠前がついている。めぐみはその錠前には目もくれず、リストの天のほう、つまり上方 から止め金具をのぞいた。止め金具には、ごく小さな六連のダイヤルロックが仕込まれていた。めぐみは数字をマニピュレーションと呼ばれる手法ですぐにさぐ りあて、解錠した。
もろさがある、と亜沙子に評されてしまったノエル……布施少年だが、亜沙子は彼を相当な信頼をよせている。亜沙子の身になにか万がいちのことがあった際 には、顧客リストの処分が彼にまかされているほどだ。しかし、解錠の数字までは知らされていなかった。
錠前の鍵穴部分はダミーおよび発火装置になっており、カギでもピンでも、穴に差し込んだとたん、本革のカバーに仕込まれた火薬が十秒弱でリストを焼き尽 くすしくみだった。布施少年に事前に教わらなければ、いまごろめぐみは灰の前で呆然としていたかもしれない。
(中略)
「めぐみ……●●●●を●●●欲しい……」
めぐみはリストを●●●に抱いて思わず飛びあがり、出入口の向こう、●の亜沙子を見る。まだ●●したままの布施少年が、亜沙子の髪の毛をなで、乳房をさ すりながら、耳元でなにかささやくと、彼女はむにゃむにゃと応え、静かになった。幸せな淫夢を見ているらしい。
(布施くんのペニス、まだ勃起をたもっているのかしら。すごいわ。どきどきする)
めぐみは、スパイ御用達と言われたミノックスの超小型カメラで、撮影をはじめた。
帳面の見開き2ページには合計で6人ずつ、顧客の素顔と、売笑婦たちとの「活動」中との写真が並べて貼られ、それに各人のプロフィールが亜沙子の手書き で添えられている。外国人も多く、3割ほどを占めている。シャッターを15回切ったところで、撮影は終わった。
ハハハ ハハハ ハハハ ハハハ ハハハ
聖アヴェティック学園の南東出入口の近くの道路上に、配達トラックが停止していた。側面には国際宅配便のロゴが描かれている。
「オーケー。画像を確認。受信成功です。……事務次官、閣僚、映像作家、新聞社の社主……ほんとにシクヌス会は『高級』ですね」
トラックの貨物室内では、通信機器に囲まれた作業服姿の少女が、パワーブックのトラックパッドに指を走らせている。めぐみのミノックスには、トランス ミッタつきのデジタル・カメラがバックアップのために仕込まれていた。それはフィルム部分の撮影と同調し、近くまで接近したこのトラックに画像を送信する 手はずになっていた。フィルムはのちほどデッド・ドロップに隠されるはずだった。
少女が作業の成功を運転席に告げると、トラックはヒプノシス修道院へと向かった。
ハハハ ハハハ ハハハ ハハハ ハハハ ***
「『自由人民軍の勝利』? いや、亜沙子の口から聞いたことはないな。……驚いた。秘密主義をつらぬく亜沙子に、ぼく以上に信頼されているんだね。嫉妬し てしまうな。コリコリ」
「まあ。嫉妬だなんて、布施くんには似合わないお言葉。ふふふ。コリコリ」
亜沙子の私室での熱い体験から数日後、夜の公園。めぐみと布施少年とは、状況を整理するため、緊急の接触をしていた。
布施少年の言うには、シクヌス会を組織する前の亜沙子には、各運動部から乞われるたび、助っ人に行っては大活躍してみせる、というフットワークの軽さが あり、また、太陽のような笑顔で誰にでもわけへだてなく気さくに接し、布施少年たち後輩からも愛されていたという。
(あっ、布施くん、うっとりとした顔になってる。嫉妬しちゃう)
彼女が変化し、持てるカリズマを発揮して秘密裏にシクヌス会を組織し、大人たち、男たちを手玉にとって金銭と各界のコネクションとを収集し、演説台で政 治的スピーチをしはじめたのは、ちょうど一年前だという。なにが彼女を変えたのか。一年前の時期にカギがある。布施少年に、いろいろと思い出してもらった ところ、めぐみはカギらしきものを見つけた。
白人の男性。
亜沙子の両親は、ともに当局の高級官僚であり、亜沙子自身も海外に友人を持つ。白人男性の知人がいてもおかしくはない。しかし。
「シクヌス会の客としては、ついこないだを含めて二回しか来ていないけれど、明らかに特別待遇だ。亜沙子とはかなり親しい仲だ。それでも、一年前にとつぜ ん現れたように思えるよ、ぼくには。……その直後だ、亜沙子がぼくをシクヌス会に誘ったのは。ぼくは知りたかった。なぜ亜沙子が仮面のようなつくり笑いし か浮かべなくなったのかを。……それにしてもやめられない。クッキーがこんなにおいしいお菓子だなんて知らなかったよ。コリコリ」
「人工甘味料も、防腐剤も使っていない自慢の品です。特製のバター飴もありますよ。おうちにお持ちになってくださいね」
ふたりは大きな石積みに腰かけ、ヒプノシス修道院謹製のクッキーをコリコリと食べながら密談している。めぐみはぬかりなく、フォションのアップルティー も魔法瓶につめてきた。
(布施くん、すっかりデスマス調をやめてくれた。ミッションのためとはいえ、幾人もの男たちに、●●●にされてきたわたしなんかに、女の子として接してく れるんだ。うれしい)
保安のためと称して、「迎賓館」内で密かに撮影されているビデオ映像を布施少年はダビングし、携帯ハードディスクビデオプレーヤでめぐみに見せていた。
「コリコリ。……すごい傷。満身創痍ですね。体格と立ち居ふるまいからして、軍人?」
「正面の映像しかないけど、背中の側にもあるんだろうね、傷が。コリコリ」
側近である布施少年も、いま画面に映る男に関しては、亜沙子からはなにも教えてもらっていない、という。
「いまは例の仮面をつけているけど、まちがいない、この男だよ。名前はわからない。この男が亜沙子と話をするときは、亜沙子は必ずひとばらいをするんだ。 ぼくはもちろん、亜沙子とはずっと前から仲良しだったバンパネラたちさえもね。コリコリ。ごくん(お茶を飲む音)。ふう。これもおいしいなあ」
白人男性は、現れた時期、つまり亜沙子が大きく変質した時期からして、めぐみの仇敵「自由人民軍の勝利」に関係を持つ可能性は高い。
布施少年の捨て身(?)の協力により、顧客リストの撮影に成功した。が、この白人男性に関しての詳しい情報が得られれば、犯罪捜査を超えて、亜沙子に 「仮面のようなつくり笑い」を捨てさせることができるかもしれない。
(わたしには素敵な笑顔に見えるけど、過去を知る布施くんには偽りの姿なのね、いまの亜沙子さまは。悲しいことだわ……くすん)
ふと、めぐみは、先日に撮影した顧客リストの記憶をたぐってみた。
(この男性は入っていたかしら? いえ、なかった。特別待遇を超えて、別枠なのね……グリーンバックのほかのグループに潜入したときも、見かけた顔ではな いし。何者かしら)
「めぐみさんは亜沙子のお気に入りだから、この男がまた来たら……」
そう言って布施少年は、うなだれた。当店のおすすめでございますとばかりに、めぐみが別枠の上客に供される、と言いたいのだろう。
亜沙子はめぐみの●●を楽しむ顧客に「嫉妬する」とまで言っていた。でも。もし●●●として接触できれば、なにか有用な情報が得られるかもしれない。た だ、モニタの中で男の頭をなでている女性はルビナス……●●●●も楽しめるクラスRである。クラスVのめぐみを果たして指名してくれるだろうか?
●●●●。
じぶん自身で思い浮かべた単語から、先日のめくるめく体験を連想し、めぐみは赤面した。
「どうしたの? めぐみさん……熱があるんじゃない? ……無理はいけない。亜沙子に、めぐみさんを休ませるよう言っておくよ」
「! だいじょうぶです。ご心配なく」
(中略)
「……おかげで、顧客リストは入手できました。布施くんこそ、もう無理な情報収集はしないでください。白人男性の件はわたしにまかせて」
めぐみは、じぶんに言い聞かせるように話題を事務的なことにもどした。
「めぐみさんが無事にミッションを果たすのを見届けたい。じぶんだけ安全をはかることなんてできない」
布施少年は、初めて出逢ったときと同じように、厳しい表情を見せた。そして、
「……●●なことを言いながら亜沙子を抱くぼくを見て、嫌いになった?」
めぐみにとっては意外なことを言った。めぐみは音がするほどブンブンと首を振った。言葉が見つからず、めぐみは右手を、布施少年の左手 に……………………このつづきは、コミックメガドリーム2004年11月号本誌でお楽しみください(^^)。
●「王女マリイの恥辱」抄録●アンソロジー「プリンセス物語」(東京 三世社 ドゥコミックス<DoComics>)に収録されています
修道院の奥、湿った厨房の床で、漆黒の髪を肩まで垂らした美しい顔立ちの少女が、すぐに訪れるだろう快感の期待と興奮に汗を浮かせひざまずいていた。そ して、仰向けに寝ている、やはり●●の青年に●●●●●。少女のしなやかな●●がほのかな灯にぬらぬらと照らされている。少女は拙いながらも懸命に ●●●●。青年の、汗に濡れた震える左手が伸び、少女の右の●●にそうっと触れると、少女は幸せな、それでいて淫蕩な笑みを浮かべた。──ノックの音がし た。
「……はい。少々お待ちください、慎一郎さま」
マリイ・マチルド・クリスレム王女は、シンプルなデザインの●●●●●●から引き抜いた●●を素早くティッシュでぬぐい、マッキントッシュ・パワーブッ クのDVDプレーヤを停止させ、画面をネット放送のニュース・チャンネルに切り換えた。
うん、と息を整え、手早くスカートとリボンを直した王女は、たたたた、とドアに駆け寄り、ノックの音の主を招き入れた。一瞬も迷うことなく、訪れた人物 に文字通り飛びつき、朱色のブレザーをはためかせて、相手の首に両腕を絡ませ、こどものようにぶらさがった。
王女の歓待を受けたのは、左手にゼロ・ハリバートンのケースを提げた、グレースーツ姿の、二十代半ばとおぼしき青年。彼の足腰はよほど鍛えられているの か、王女の勢いあまるほどの抱擁にもからだは揺れなかった。
「お帰りなさいませ、慎一郎さま」
下から見上げてくる顔は、もう見慣れているはずだが、青年はそれでも軽い目眩を覚えた。王女はそれほど美しかった。……黒くつややかな髪は肩にかかるミ ディアム。アーモンドのような形良く大きな眼、その中心にはヘイゼル色の虹彩。0・1ミリたりとも動かせぬほどにバランスの整った唇。顔立ちこそ東洋人だ が、エキゾチックな印象を強く与える美少女、それがマリイ王女だった。
「ノックだけでぼくだとわかったんですか?」
「音が心地よい響きでしたもの」
慎一郎さま、と呼ばれた青年は、まさか、と思っただろうが口にはしなかった。訓練に参加するため、丸三日のあいだ会えずにいた王女の顔を見られただけで もうれしかったから。愛されているという実感を味わえたから。
……頬、おとがい、鼻梁、額……慎一郎は、天才的な人形作家の手になる渾身の作品をも越える、王女の顔の輪郭を視線でていねいになぞっていく。それだけ でもじゅうぶんに目が心地よいのだろう。
ニュースらしき音声が聞こえたので、青年は17インチ画面を持つ大振りなパワーブックに目を向ける。日本最大の医療法人財団が、暴風雨災害にみまわれた 発展途上国への緊急援助を決定した、という報道だった。
「お勉強の最中でしたか?」
「いいえ。慎一郎さまがお帰りになるまで、大きな事件でも起きていないかと、ニュースを見ていたところです」
王女はしかし、表情こそ心配げに曇らせたが、さきほどの映像で得た興奮のため、頬は紅潮したままだった。それを隠そうとするつもりか、宝貝のようになめ らかな紅唇で彼の口をふさぐ。驚きで反射的に閉じられかけた唇の隙間に、マリイ王女は抜け目なく熱い舌をヌルリとすべりこませ、彼の口腔をくまなく情熱的 にまさぐった。
「んむっ……王女……ふ……う……」
彼は少しだけかがんでケースを床におろし、朱色のブレザーの背に両手をまわして、しばしのあいだ、されるがままになっていた。ふだんの王女しか知らぬひ とがこの光景を見たら、腰を抜かして口をOの字に開け、まばたきも呼吸も忘れるだろう。
長い長いくちづけがようやっと終わった。
「訓練、ごくろうさまでした。お疲れでしょう?」
「いえ。めったなことで疲労を感じないようにも鍛えていますから、ご心配なく。……仮に疲れがあったとしても、いまのキスで吹き飛んでしまいましたよ」
「まあ……! 慎一郎さまったら、おしゃべりの訓練も受けていらしたのですか?」
晩春の夜気がかすかに揺らぎ、窓の外からふたりを見つめるように月が輝いている。いまふたりがむつみあっているのは、明治初期に建てられた、豪壮なケル ト・ルネサンス式洋館の東側翼棟二階にある部屋だった。都会の一等地にあって、広大な敷地にいくつもの歴史的建造物を有するこの家は、旧家・一条家の邸宅 である。
マリイ・マチルド・クリスレム王女は、欧州の小王国、クリスレムの王位継承権を持つ。クリスレムは、ハプスブルク家とはカール6世の、ロマノフ王朝とは ピョートル3世の時代から縁戚関係を結び、また大財閥とも密接に関わり、幾たびの戦乱も巧みに避けてきた。
近年、タンタルやニッケルをはじめとする希少金属の有望な鉱床が国内で発見されると、クリスレムは大国や大企業の注目を集めた。マリイは、生まれたとき から、いや生まれる前からそれらをめぐる国内外の利権闘争に巻き込まれた。一度ならず誘拐され、生命の危機にもさらされた。それゆえ明治時代の古くから王 家と懇意にしていた日本の旧家、一条家に身を寄せることとなった。
「ええ。こちらの訓練も……たっぷりと積んできました」
慎一郎は、右手でミニスカートをたくしあげ、短い爪の太い中指を、●●を包む●●●●の●●●●にあてる。すでに●●●感触があり、熱を帯びていた。 きゅっと押しながら、ゆっくりと撫でまわす。
「お……お戯れはおよしください。今回の訓練の中心は、逮捕術……のはず」
「●●術のカリキュラムもあったんです。ふふふ」
「●●●●……! 嘘です、そんなの……くうっ! おやめください……●●●●……●●●●●●●●……」
王女は息を荒くし、●●えして、逃げようとしてみせるが、背中に回されていた慎一郎の左手に力が入る。
「●●●●っ……●●●●いとまをお与えください……」
旧家・一条家が経営する大手警備会社から厳しく選抜された者たちが、王女の身辺警護についたが、王女はそのうちのひとり、矢吹慎一郎と「身分ちがいの禁 断の恋」に落ち、その関係はすぐに周囲に知れた。慎一郎は辞職願を出したが、受理はされなかった。クリスレム本国、一条家、警備会社の三者間に「王女にへ たに悪い虫がつくよりも、身辺清潔、思想信条に問題ないがゆえに選ばれた警備員がかりそめの恋人となるのは、考えようによっては安全である」という、わ かったようなわからないような合意がなされ、ふたりの仲は黙認される。
ただ、王女に万が一にも「新しい家族」が増えると、非常に複雑な問題が発生するため、そのあたりは強く強くクギを刺されているふたりだった。
王女の、父方の曾祖母は日本人である。そのひとは活躍当時であった明治時代の基準からしても、また現代日本女性の基準に比してもなお破格の冒険婦人であ るらしい。王女の外見が東洋人であるのは、また危機に瀕して恐怖よりも闘争心がうち勝つのは、その曾祖母の血をとても濃く受け継いでいるからかもしれな い。
「ほんとうにこの服は、王女にお似合いですね」
そう言いつつ、慎一郎は王女の、オレンジ色の大きなリボンをはずし、首を覆うほど襟の高いブラウスを●●●●。彼は王女の通う学校の制服がとても好き だった。 ……パッドで大きくふくらんだ肩の下、左の上腕部にSSI──軍服の部隊章──のような校章が刺繍された朱色のブレザーは、丈が短めで、ウエス トが細くしぼられ、着る者の体型を選ぶ。ボックス・プリーツのスカートは、ふつうに歩いてもショーツが見えるのでは、と心配になるほど短い、深紅のミニ。 膝下までを覆う白いソックスにはやはり剣と羽根をあしらった校章が入っている。さすがに靴だけは、シンプルな黒いローファー。かなり派手な色づかいとデザ インだが、まるで王女が着ることを最初から想定してつくられたかのようだ、と彼は思う。王女が制服姿のままで彼の帰りを待っていたのは、彼がこの服を気に 入っているからだ。
「……慎一郎さまも、楽になさってください」
慎一郎の手で●にされたマリイ王女にそう言われ、彼はネクタイに手をかけた。王女も●●を●●●●。スラックスの布が大きく●●●●●●●●。
(中略)
慎一郎が王女を初めて見たとき、その造形への感動は肉欲にまさった。小さな汗のつぶが浮いたきめ細かな肌は白磁のような輝きを放つ。身長の半分を占める 引き締まった脚。東洋と西洋の美、その理想的な融合が王女の肉体に与えられていた。彼の率直な感想は、……まるでアニメやゲームから抜け出してきたよう だ……といういささか幼稚なものだった。しかしその凡庸な印象こそが王女の美を表現するのには最適だった。
(中略)
慎一郎は、ほんの少し意地悪そうな笑みを浮かべ、王女に問いかける。
「今夜はどんな●●がお好みですか?」
「! ……●●●を……お願いします」
すでに●●していた慎一郎の●●●は、頬と耳を赤らめつつ発せられた王女のかそけき声に反応し、●●●●●●●●かと思うほどにさらに●●●●●●、 くっきりと割れたたくましい腹筋に向かって●●●●●●●●。
「まず●●してから……●●をお願いします」
慎一郎は、いつものように厚手の(中略)
嘘である。
慎一郎の不在のあいだの毎晩、最低でも二回はした。慎一郎がドアをノックしたついさきほども、
(中略)
(ひそかにお帰りになった慎一郎さまが、いますでに、わたくしのうしろに忍びよっていて、『王女たる者がそんな●●●ことをしてはいけませんね』と、突然 わたくしの手首をつかんだらどうしましょう。ああ)
王女はわざと慎一郎の帰投予定時刻にあわせて●●をし、スリルでみずからを●●●●●●。
(中略)
(『王女としていかがなものか』と、慎一郎さまに●●●いお仕置きをされたらどうしましょう。ああ)
などと、たわけた想像までしていた。
(中略)
ニュース映像の前に王女が見ていたのは、ある理由から修道院に派遣された修道士が、そこで起きる連続殺人の解決に奔走するさまを美麗に描いた映画 「●●●●●」だった。王女の家庭教師のすすめで見たそれは、知的かつエキサイティングなサスペンス作品だったが、露骨な性描写があり、王女はひどく驚か された。
(中略)
以来、マリイ王女はこの映画を飽くことなくくり返し見ている。……家庭教師がこの映画をすすめた真意はいまもって不明だが。
慎一郎は、たとい警備の際であっても、一条家を囲う道を歩くのが好きだった。
「少しのあいだ、夜風にあたってきます」
「わたくしもご一緒いたします」
「いえ、ついでといってはなんですが、屋敷の外を見回ってまいります」
「まあ……翌朝までは非番でいらっしゃるのに」
「ついでに、です。ふふふ」
慎一郎は、あえてひとりになりたかった。彼には、王女と一緒にいると、あまりに幸せが過ぎるような、妙な恐れがときおり訪れる。いまがそうだった。
警護員詰め所に寄って帰投予定の時刻を伝え、正門わきの通用口から邸外へ出た。
一条邸の正門から東へ少し歩いた暗がりに、ボルボだろうか、ふだんは見かけない黒いステーション・ワゴンが停められていた。車内はよく見えない。いつも の彼であれば、万事そつのない対応ができただろう。しかし、いまに限っては、マリイ王女の激しい愛の表現が、彼の判断力と俊敏さをいささか鈍らせていた。
慎一郎は、念のため警護員詰め所に連絡しようと無線機を取り出しつつ、ワゴンに近づいた。そのとき、背後でボスッ、と重くくぐもった音がした。その方向 に反射的にふり向く。直後、ブン、と蜂が羽ばたくような音が続いた。
「!」
慎一郎は右頬を中心に、痛み、というより強烈な衝撃を覚えると、すぐに意識が遠のいた。
音がした方向にある家のガレージ内に、黒い服に身を包んだ男が、H&K社のMZP‐1──暴徒鎮圧弾発射機──を構えて潜んでいた。
(中略)
王女のパワーブックに、html形式のメールが届いていた。題名、差出人の記名、ともになし。本文は5行ほどの簡潔なもの。……王女殿下のご寵愛を受け てやまぬ、矢吹慎一郎殿をお預かり候。下記の時刻、場所でお待ち申し上げ候……という内容。わかりやすい地図と、上半身のみが写った裸の慎一郎の写真とが 添えられていた。向かって左側の鎖骨にあるほくろからして、合成写真などではなかった。地図の右下に、小さくではあるが、手術用のメスの絵が描かれている のが、不吉だった。
「……!」
(中略)
王女は無免許だが運転はできる。1分でも早く指定の場所に着き、有利な策をとりたい。速そうな車は、と、目に止まった路上駐車のBMW・M3CSLを 「拝借」することにした。 ドアロックも、十億通り以上のコードを誇るイモビライザーさえも、王女が常時持ち歩く、携帯ゲーム機に見えるデバイスにより難なく突破された。
……………………このつづきは、まんがと小説のアンソロジー「プリンセス物語」(東京三世社 ドゥコミックス<DoComics>)でお楽し みください(^^)
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